俺が猫を飼いたくないのは、ジェイクを取られてしまいそうだと思ったからだ。
もふもふの毛、可愛い鳴き声、柔らかい肉球、ガラス玉みたいに綺麗な眼。
俺には無いもので、ジェイクを誘惑するに決まってる。
奴らはそれを無自覚でやってる。大人から子どもまで、無邪気な毛玉が大好きだ。
でも、ジェイクだけは絶対に渡さないからな。
なのに、今日に限って。
デートの帰り道、アイスを買って公園のベンチに座って二人の時間を楽しんでたっていうのに、奴らはやって来た。
大人の猫が5、6匹、ジェイクの脛に頭を擦り付けてアイスをねだる。
公園にいる動物って、どうしてこうも人に寄って来るんだろう。しかも、ジェイクは動物に好かれるタイプだから鳥も犬も猫もみんな寄って来る。ペットまで寄って来るもんだから、飼い主も当然着いてくる。
ジェイクは他人がまだ少し苦手だから、俺が適当にあしらってやっていつも守ってる。
その時の安心した顔が好きで。
けど、今日は守る必要すら無さそうだ。
動物に好かれる点で言えば、ジェイクは満更でもなさそうにする。
今だって、何食わぬ顔をしてアイスを食べてる筈。
足元に群がる猫に落としていた視線を上げて、ジェイクの様子を窺う。
頭を擦り付けられるのが擽ったいのか、猫を避ける様にしてたまに足を動かしてる。
「おーい、やめろよ子猫ちゃん。おにーさん嫌がってるでしょ」
シッシッと軽い威嚇をしながら手で払いのけると、ふわふわした毛が手に触れた。
ライバルだけど、可愛いのは確かで、絆されて撫でそうになる手をぐっと堪えて引っ込めた。
「…こしょばかった」
頭を擦り付けられる感触がまだ残っているのか、ムズムズとした様子で足を擦り合わせるジェイクは猫よりも断然可愛い。
ジェイクの手を見ると、アイスはもう無くなっていた。
同時に、ジェイクに興味をなくした猫たちは別の食べ物を持った人間の方へと足軽に散って行ってしまった。
「…アイスが欲しかったんだな」
少し残念そうにするジェイクにムッとする。
「俺はアイス以外も欲しいけど?」
誰も見ていないタイミングを図って、唇にキスをした。ほんのりバニラの味がして、唇も冷たかった。 人前でこういう事をしたがらないジェイクはすぐに顔を赤くする。 けど、俺が猫に嫉妬してるのも、さっきの一言でバレてて。
「俺は犬派だから…」
そして犬にするように、俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。せっかくセットしたけど、ジェイクにこうされるなら別にいい
「俺は犬?」
「ん…どっちかっていうと」
「ジェイクは猫っぽいよな」
「あんなに可愛くない」
「猫のこと可愛いと思ってんだ?」
「そう言うお前は?」
「思ってマス…」
「じゃあ、まぁ…そんなに猫のこと毛嫌いするなよ」
「猫なで声でジェイクに近づく奴はみんな嫌いデス」
「猫なで声っていうか…本物の猫なんだけどよ」
「うるさーい」
まだ足元にいた猫を1匹抱き上げて頭に銃を突き付ける仕草をして見せる。
「こいつがどうなってもいいのか!」
「なんだそれ」
「人質を交換するなら解放してやる」
「分かった、代わるから」
俺の手からひょいと猫を抱いて下ろしたジェイクが腕の中に入ってくる。
あんまりに素直だから、槍でも降ってくるんじゃないかと思って空を見上げた。
「…槍でも降ってきそうとか思っただろ」
「え?いやぁ?」
「ばか」
せっかく腕の中に入ってきたジェイクのぬくもりがすぐにどこかへ行きそうになったから、咄嗟に両腕で抱きしめて閉じ込めてやった。
「やめろ、槍が降る」
「降らないよ」
たまにデレてくれるジェイクが可愛くて堪らない。
俺がこうやってちょっとからかっただけで機嫌が悪くなるのも、気分屋ってよく言われてる猫みたいで。
「こいつでも抱いてろ」
もう何回も抱いては降ろされた猫は流石に不機嫌そうだった。でも、この子は大人しいタイプみたいで黙ってジェイクに抱っこされている。
俺はジェイクを、ジェイクは猫を抱いてるから、見た目はさながらマトリョーシカだ。 可笑しくて笑うと、ジェイクもそれに気づいて笑いそうになってたけど堪えてた。 怒ってる手前、笑うと負けた気になるからだろうな。
「もー…恨みきれないな…猫って」
そう言いながらジェイクの髪の毛をぐしゃぐしゃに混ぜてやった。
「それ、猫じゃなくて俺」
「わかってるよ、猫ちゃん」
ボサボサの頭を撫で付けて整えながら、鼻を埋めて擽ってやると体重を預けて凭れかかってくる。
猫みたいに高い体温がじんわりと沁みてきて、愛しさが増した。
「ジェイクにゃんこが1番好きだよ」
「…あ、そう」
夕日で赤く染まるジェイクの顔が照れてるように見えて、可愛いと思った。 やっぱり、俺は猫派かな。
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