放ったらかしだった庭のひまわりが、いつの間にか増えていた。
奇妙なのは、太陽の光に背を向けていることだ。 家の中を凝視するようにこっちを向いて群生したひまわりの威圧感が、気分を重くさせる。
なのにスティーブは「かくれんぼしようぜ」なんて言ってひまわりの中へと消えていった。 すぐに追いかけたが、見失ってしまった。
俺よりも背の高いスティーブを優に超える大きさのひまわりが視界を邪魔する。かくれんぼなんてる気が無かった俺は、大声でスティーブを呼んで右も左も分からないままあちこち探し回った。
夕暮れに差し掛かった空がピンクグレープフルーツの色に滲んだ。
巣に帰るカラスの群れが鳴いて、孤独を感じる。
自分がどこに居るのかさえ分からない。スティーブも見つからない。家はどっちだったっけ。
太陽が沈み始めて元気をなくしたひまわり達が視線を落として、俺をじっと見下ろしてくる。
「やめてくれ」。 そう言いたかったのに、声が出ない。
昔、一人で泣いた時と同じ胸のざわめきが襲ってくる。
怖い
何かから身を守ろうとして、膝を抱いて蹲った。
自分を抱くことでしか、温もりを感じられない。
スティーブ
声を絞り出した瞬間、誰かに腕を引っ張られ一緒に駆け出していた。
ひまわりの間をくぐり抜けながら、目の前がだんだん白く眩しくなっていく。
俺の手を引く背中が誰なのか分からなくなっていって、世界は真っ白になった。
目を開けると、家のベッドに居た。 正確には、ベッドの下。 寝てる間に落ちたみたいだった。
視線をベッドの上へやると、俺の腕を掴む細くて色白い腕が見えた。
2度寝してやろうとシーツの上に戻って、隣で子どもみたいな顔をして眠る寝相の悪い恋人にキスを落とした。
庭のひまわりはカラカラに乾いていた。
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